「県庁舎建設問題について(T)」の中での質問に対して知事及び理事者の答弁の骨子は次のとおりです。
1. 現庁舎の跡地対策や長崎駅周辺の土地利用のあり方のついては、県庁舎が移転新築するとした場合、長崎市の都市整備のグランドデザインを長崎市とともに策定する。
2. 県庁舎は、地震は発生時の防災拠点としての役割を果たす必要があることから、震度6強の地震に耐えるような施設に急ぎする必要がある。
3. 本県の財政運営は健全であり、県庁舎を建設する場合でも現在の庁舎整備基金368億円の活用により新たな財政負担は生じない。また、必要な政策課題についてはしっかり対応している。
4. 道州制の議論と県庁舎建設問題は分けて考える必要がある。 等々。
これらについて私の抗弁は次のとおりです。
抗弁1 長崎市の都市整備に関するグランドデザインの作成と県庁舎の移転新築について
知事及び理事者側は、県庁舎が移転するとすれば、あるいは、県庁舎が魚市跡地に移転することが決まれば、現庁舎の跡地や長崎駅周辺、長崎港臨港部等のグランドデザインを策定したいとしているが、これはまさに移転ありきであって、県庁舎の移転新築問題との検討作業において前後関係が全く逆である。
なんとなれば、
第一に、財政上からみて後から描くグランドデザインを県民・市民が納得するものにするという担保がありません。
第二に、そのグランドデザインについて、果たして県庁が現在地にあることがベターか、魚市跡地に移ることがベターか、県民・市民が比較衡量できません。
第三に、跡地対策についての実行がいつになるか、誰が責任を持つか、事業費をどうやって工面するのか、そういったことが曖昧になります。
第四に、仮に魚市跡地に移るとしても県庁の機能、規模、形態は、逆に駅周辺をどうつくるかということが示されなければ合理性を持ち得ない。
つまり、まち全体をどうするのかというグランドデザインが明確に示されない限り、個々の施設の建設、移転についてこれを上回る理屈など無いのであります。
また、あとが連続しない中で移転新築を急ぐとどういうことになるか、別の角度から言えば、
先ず、駅周辺の地価が上がる。間違いなく上がる。JRはいいがそのことで駅周辺の再開発について県民の税負担はさらに増大することになります。
また、跡地整備についてのタイムラグが生じれば、まち中の都市活動に必ずダメージを与えて市経済の地盤沈下を招くおそれがあります。
そういった大きなデメリットが発生することが十分に危惧される。
ですから、つまり、
「県庁舎が移転するとすれば、あるいは、県庁舎の移転が決定すれば、長崎の市街地の今後のグランドデザインについて作業にかかる」ということではなくて、「県庁舎の移転の適否を決めるためにも、先ずは、長崎の市街地のグランドデザインを描いて、そのことについて県民・市民の評価を仰ぐ」とすべきであります。
抗弁2 防災拠点としての必要性から県庁舎の移転新築を急ぐべきだとの主張について
知事及び理事者は、震度6強の地震により県庁舎が倒壊するおそれが大であることから、災害時の防災拠点としての機能を確保することを金科玉条のようにして、県庁舎を移転新築すべきであると主張するが、そこは良く考える必要があります。
第一に、住民を守るべき城が何ともなかったとしても、本来守られるべき県民・市民が事前にその手当がなされなかったことで被害が大きかったとしたら何とするのでしょうか。
学校の耐震化だけではありません。避難所の充実や県営アパートの補強や、橋梁の補強や公共空間の整備や、県民・市民を守るために事前に取り組まなければならないことは山ほどあります。
第二に、防災拠点が何にもまして優先するというのであれば、それは、リスクヘッジのために庁舎をむしろ分散することがベターです。
まして、何に対する防災拠点か。地震のことばかりおっしゃるが長崎の過去の歴史をみて下さい。長崎大水害や諫早大水害。いつおこるか分からないことを絶対的な与件としてはめ込むよりは、 −それを否定するわけではありませんが、−県民が経験したことに、より備えるということが優先されるべきであります。
第三に、仮に地震が発生した場合の緊急対策として、県庁に全ての機能がそろってなければならないように主張されますが、本当の緊急対策として必要なことは、自衛隊への出動要請をしたり、国への支援を求めたり、市町の取り組みを把握したり、いわば緊急対策の司令塔の部分であり、それは既に新別館の頑強な場所に移転し備えています。心配なら知事室もそこにお移りになればいい。
応旧・復旧はそれからです。神戸の大震災時、兵庫県庁もハンディをかかえながらも応旧・復旧にあたることができた。むしろ市・町の対応能力を高めることこそが大事です。
抗弁3 財政運営上の問題及び県庁舎建設に関連する全体事業費の問題について
知事及び理事者は、本県の財政運営は健全であり、かつ、県庁舎建設経費は整備基金368億円を念頭において財政負担が生じないように考えていくと主張するが、これらはいずれも問題があります。
1. 財政運営は健全だと主張するが、しかしそれはどういう尺度で計るのかということであります。数字の見せ方はいろいろとあります。いろいろな課題が多い本県はいろいろと財政出動していかなければならない。
課題が多い。だからそう簡単ではないんです。
2. 実際、県自らが示した中期財政見通しでも期間中ずっと単年度赤字が続き、財調3基金も取り崩していかなければなりませんし、県債残高も400億円以上も増えると明記されております。
さらに、公共事業費を毎年940億円の同額で計上していますが、それは今後、新幹線やJRの連続立体化事業や国体やそうした大型事業を入れこめば、これまでの道路をはじめとする政策投資を圧縮せざるをえないということを示しているようなものです。
3. そういう中で、理屈はどうあれ巨額の経費を自分たちの事務所のために使うということは、家計の苦しい県民からはとても納得がいかない。
4. また、県庁舎問題を検討する場合の全体事業費ですが、
・先ず、仮に魚市跡地に移転新築するとした場合は、現庁舎の跡地の整備は玉つきになるわけですから、その跡地の施設整備費も財源を含めて全体事業費として示す必要があります。
・移転新築に要する全体経費も、今のように単に建家の建設費だけではなくて、防災行政無線や庁内のランの経費や、備品や移転雑費など、全体の経費の概算を示すことが必要です。
・さらに、地方機関の再編整備に要する経費も、本庁であれ地方機関であれ同じ性格のものですから、庁舎整備全体としてはこれくらいかかるということもきちんと示さなければなりません。
・そういった関連する全体事業費の概算を県民に明確にすることが必要であり、そうすると庁舎整備基金368億円で賄えるということはとてもあり得ません。
抗弁4 道州制への対応と県庁舎の移転新築問題について
知事は、九州地方知事会の会長として道州制問題をリードし、今秋には道州制の九州モデルも公表する予定になっています。反面、県庁舎問題を問われるときは道州制の導入は今後相当の年月が必要だし、また、仮に道州制が敷かれても、長崎のことは長崎で事務をする拠点が必要になる。したがって、県庁舎を新たに建設しても無駄にはならないと主張しますが、しかしながらこれはやはり、立ち位置がぶれていると言わざるを得ません。
なぜなら、
第一に、道州制を急ぐよう国の取り組みを加速させることに軸足をおいて、新しい分権型国家をつくることこそが地方の発展につながるという信念であれば、県庁舎問題も急場をしのぐ別途の方策を考えると思います。私ならそうします。程度の差はあっても市町村合併をまのあたりにした市町村と同じじゃありませんか。
第二に、近い将来、県の役割が大きく変わることを想定していけば、一か所の庁舎に集中すべき理由もありませんし、県庁舎・議会棟・警察本部庁舎がセットでなければならないこともありません。先の議員の質問に対する答弁で、県庁と県警は事務処理で連携していかなければならないからとおっしゃいましたが、それはそうであっても、連携を図ることと庁舎の一体化が必要十分条件かというと、今の時代とてもそうは思えません。
さらに付け加えれば、道州制はそこに幅広い権限を付与するものであっても、原則としてチープガバメントとすることが描かれている姿です。
第三に、いずれにせよ、業務量にあった組織規模・施設規模でなければならないわけで、不確定な状況の中で既存の在り方をベースに考えるのは、合理性を欠いたものと言わざるを得ない。いま、この国の新しい形づくりをしようとしている一方で、従来型の行政機能を維持する前提で巨費を投じる庁舎整備を考えることは、考え方として相容れないものがあります。
抗弁5 耐震補強経費の出し方について
知事及び理事者は、現庁舎の耐震補強工事をすれば、県警本部庁舎も含めて工事費・仮庁舎借上費・移転費等全体で135億円かかると主張しますが、これについては精査をするとともに、より柔軟に検討していく必要があります。
説明では、現在の庁舎を耐震補強する場合、全体事業費135億円もかかり、そのうち本館と第一別館の耐震補強工事費は60億円かかる。
外部に補強フレームを増設し、内部に補強ブレスを193ヵ所増設して、6階の土木部と時計塔は解体撤去する。そうすると60億円かかる。しかし、耐用年数が延びない中でこれだけの投資は経済性の観点から相いれない。そういった説明になっています。
しかし、耐震補強工事を進めている高等学校での取り組みはというと、実績で、長崎南高は4377uで事業費は91,813千円、したがって平米単価は21,000円。長崎西高は8122uで事業費は1億7166万2千円、平米単価は同じく21,000円。
これに対して県庁はどうかというと、本館と第一別館の延床面積は23,398uで全体工事費60億円ですから、平米単価はなんと256,432円。坪でいえば846,225円。まさに新築に近い単価です。南高や西高の単価の12.2倍もするし、逆に、南高や西高並みの改修単価であれば本館と第一別館の工事費は約4憶9200万円で済むことになる。示されている数字60億円の12.2分の1。
知事は、官庁施設の総合耐震計画基準に準拠して試算したと言われるのでしょうが、同じ耐震補強工事でありながら子供たちの生命を守るための投資と自分たちの事務室をつくるための投資でこれだけの開きがあることに、県民は納得がいくでしょうか。
抗弁6 県庁舎建設問題についてのアンケート調査結果について
ある新聞の最近のアンケート調査によれば移転新築そのものに反対する割合が35%、賛否が明確でない割合が24%、移転新築に賛成の割合が41%です。
只し、賛成の中身で魚市跡地と答えた割合が21.5%、県央地区と答えた割合が16.7%、それこそこれまでの議会の経緯から移転新築するとした場合その建設場所は魚市跡地であるという与件をはめれば、移転新築に賛成と答えた人でも逆に反対と答える側に流れる可能性が十分に高いと思われます。そうすると賛成の割合はもっと減るでしょうし、実際に魚市跡地を良しとして移転新築に賛成した割合は21.5%にとどまっており、反対の割合より低い。
また、おひざ元の長崎市民は反対45%、賛成30%で反対が賛成の1.5倍になっています。
知事はこのアンケート調査の結果をどのように認識しているのでしょうか。
以上、県庁舎建設問題についての本会議でのやりとりを掲載いたしましたが、皆様方のご意見をお寄せ下さい。
なお、県庁舎建設問題についての県議会特別委員会が10月3日に発足することになり、私もその委員として参加することになりました。
|