|
|
ご案内のように、金子県政3期12年間の間に、諫早湾干拓事業、女神大橋、県立美術館や博物館、長崎出島道路等の大型事業が次々に実施されてきました。これらの大型事業にかけられた経費は、主な38事業だけで1兆5,323億円。加えてさらに、新幹線西九州ルートや新たな県庁舎の建設等が行なわれようといたしております。
社会基盤の整備を計画的に一定実施していくことは必要なことではありますが、これだけ多くの公共事業に偏重し、多額の税金を投入した結果、果たして県民の皆さんの暮らしは10年前と比べて良くなったんでしょうか。楽になったんでありましょうか。
県民生活のプラスに左程なっていないと私は思いますが、そればかりか、働く場が少ないから若者は県外に流出し、年金受給者は実質的な目減りの中で将来の生活の不安を抱えておられます。漁業や農業も含めて産業振興の取組みはなかなか進まない。そうした本県の課題は何一つ解決されていないのであります。加えて、全国的な経済不況の中で、地場の企業は資金繰りに困り、雇用不安も広がっています。県民所得は、この12年間全国で45位から42位と相変わらず低迷し、定量的には、むしろ、長崎県全体が元気を失いつつあるというのが実態ではないでしょうか。
このままの県政を継続する限りは、ふるさと長崎が増々負のスパイラルに陥ってしまうと申し上げなければなりません。
さらには、政策の優先度の判断において、長く権力の座にあるからかも知れませんが、県民の立場、県民生活の視点からずれてきていると思われてなりません。
先行きの見通しも厳しい経済不況、生活不安の中で、多くの県民の皆さんは地場の産業や雇用を守り、生活を防衛するために、福祉や医療や子育てやそういった暮らしに係るセーフティーネットをしっかりつくって欲しいと思っておられる。そのためには、県民のために思い切った財政出動もしなければなりません。
しかし、県政の現実は、そういったことよりは、たとえば、知事や職員の事務室である県庁舎を400億円近くかけて新たに建設しようとしている。そしてまた、県の地方機関も県内各地にある施設を集約し、これもまた、そのためにわざわざ新しい庁舎をつくろうとしているのであります。
400億円近くの税金の貯金があるなら、何故、先ずは納税者である県民のくらしのために使わないのか。今のこの厳しい経済状況をどう考えているのか。到底私には理解できないのであります。
加えて、県の行財政運営の取組み方として、常に国に依存し、国が決めた枠内でしか物事が動かないことで良しとしてしまっています。県民の側に目を向けるというよりは、東京の霞ヶ関ばかりに目が向かっている。
これでは、今、地方の自治体に求められている地方分権型の社会づくり、即ち、県民のために、県民とともに、県としての責任と権限において主体的な地域運営を行うという、地方自治体もさることながら、わが国全体の将来を切り拓いていく新しいこの国の形づくりなどできようはずもないのであります。国が決めた枠の中で事業を執行するだけなら、県民の代表として県政をつかさどる知事という職はいらないと言わざるを得ません。
これではいけない。県民の生活を守り、長崎を元気にするために、そして長崎県の主人公である県民の皆様のふるさとへの自負を高め、将来を展望していくためにも現在の県政を勇気と信念を持って変えなければなりません。
それではどうするか。
これまでのあり方を率直に見直し、先ずは県政を進めるうえでの立ち方を明確にすることであります。
それは、県民生活第一の理念に基づいて、県民のくらしを守るための政策を中心に進め、そうした取組みを通じて県内の内発力を高め、長崎の活力をつくり出していくこと。
そしてそのために、公共サービスのこれまでの仕方を根本から改める。いわば、「新しい公共のかたち」をつくり、そのうえで地方主権を基本とする連邦型の道州制の導入にいち早く取り組んでいくことであります。
これまでのように、いくら単発的な大型事業をやっても、かけた経費の大半は県外資本に吸い取られ、地域経済の浮揚にはつながらないばかりか、県全体の政策投資予算が圧迫され、地場産業の振興や雇用対策、まちづくりといった県内の内発力を高めていくための取組みや、医療・福祉・介護・子育て・教育などのくらしのセーフティーネットを確かにしていくための取組みが不十分なままに終わってしまいます。
その結果、県民の受益は少なくなるのに反し負担は増える。そうした状況の中で若者は益々県外に流出し、県全体としての将来への活力も失われてしまうという、負のスパイラルに陥ってしまうのであります。
ですから、こうした悪循環を断ち切るためには、県の政策投資の軸足を根本的に転換しなければなりません。そしてまた、政治や行政の究極の使命は県民のくらしを守るということからも、県民のくらしに直結する公共サービスを充実させるということを政策運営の柱として予算編成をしていくということであります。
それは、福祉や医療や子育てや雇用、消費生活といったことは勿論ですが、公共事業についても、日常生活に活かされる身近なインフラ整備、即ち、日常生活の便益度を増すための公共事業を中心とする。さらには、県民一人ひとりがより自己実現が図られるような社会環境づくりを加速させる。
こうした県民の側に立った政策を重点的に実施することが、県内の内発力を高め、本当の意味で長崎を元気にし、活力を生み出すのであり、その取組みこそが優先されなければなりません。
また、行政がひとり公共サービスを担うというこれまでの地域運営のあり方を踏襲する限りは、県民の大切な税金が県庁を維持するための内部管理経費にばかり充当され、その結果、いつまでも国の財源や政策に依存する、いわば国の下請け機関としてのままで、本県の課題解決に主体的な取組みができないばかりか、自分たちが地域の主役であるという県民の自治能力を高めることも、また、その力を引き出すこともできないのであります。
従来からの枠組みや制度を前提とする限り、いくら長崎県のために頑張るといっても、また、誰が知事になっても、いずれ近い将来、財政は間違いなく破綻し、本県が背負っている命題に成果を導き出すことは、例えて言えば、まさに百年河清を待つが如しであります。
今こそ、公共サービスをひとり行政が担うという仕組みを大改革して、また、行政が自らの尺度や判断でそういった公共サービスをどれだけ実施するかという行政任せのやり方を大改革して、住民・企業・団体・行政のベストミックスによって「新しい公共のかたち」をつくる。
そして、住民が公共サービスの受け手となるだけでなく、公共サービスの提供者・立案者といった自治の担い手として参画する真の意味での住民による自治社会を実現することが何より肝要であると思います。
そして、地方分権でなく地方主権を基本とする連邦型の道州制によるこの国の新しい形づくりについても、地方から主体的に発信していく。そのことが、本県の将来の発展を導き出す原動力になる。
こうした考え方に基づいた政策運営と政策判断を行なっていくことが、大切であると私は確信いたしております。
これまでの行政主導の自治体運営のあり方を根本から変えることで、長崎をもっと活き活きとした県民主役のまちに変える。本県の主人公である県民の皆様とともに、みんなで長崎を変えていく、そして、この国の新しい形づくりに長崎から率先して発信していくことに私は全力を傾注したいと思います。
そして、こうした県政の力点と進め方を県民の立場から根本的に変えていくことと併せて、本県の課題に積極果敢に取り組んでいかなければなりません。
先ずは現下の不況対策。 緊急経済対策・雇用対策として実効ある施策や事業を大幅に拡充し、時を置かずに大胆に実践していくことであります。
かつて私たちは、造船不況やオイルショック、あるいは国のエネルギー政策の転換に伴う炭鉱閉山による大量の離職者等の経済危機・雇用危機を経験しました。
こうしたかつての経験に学び、打つべき効果を検証しつつ、大胆な経済対策・雇用対策を重点的に進めていかなければなりません。県内の中小零細企業の経営を守り、真面目に働く人たちの雇用を確保し、県民の生活を防衛することは政策の優先度における緊急ということではなく、生命にかかわる問題として本当の意味での緊急であります。
今の県政の取り組み方は、基本的に国の臨時特例交付金の活用ということにとどまっており、失業者の救済のための雇用創出目標も、とても現実の深刻さに追いつかない状況に甘んじてしまっております。
先程申し上げた368億円ある県庁舎整備基金を取り崩してでも、中小零細企業の経営安定化策や円滑な労働移動を助長するための職業訓練の支援、雇用の新たな受け皿として期待される職種に対する人件費の助成など、およそ考え得るあらゆる手段を講じて緊急の経済対策・雇用対策を打っていかなければなりません。
そして、もう少し長いスパンになりますが、同時に、本県の産業構造、就業構造を持続的に発展する分野にシフトさせていかなければなりません。
それは、エネルギー利用の現状を変革していく、環境をキーワードとした新たな環境共生型産業であり、また、新たな経営方式、生産方式の導入や一定の要件のもとでの所得補償制度の創設、あるいは、6次産業化等によって食料自給率を格段に高めていく農業・漁業の一次産業であります。
いわば、環境ニューディール政策、食料ニューディール政策ともいうべきものを、確かな成長戦略をもって総合政策として大胆に進めていくことであります。
2点目は、県民の生活を守るための県独自の新たなセーフティーネットづくりを積極的に行なうことであります。福祉・医療・子育て・教育・食の安全安心、将来のくらしに対する備え、こうしたことに対してこれまでの制度の枠内に甘んじた取り組みから脱皮して、また、行政がその物差しでサービス内容を決めるというやり方を改めて、利用者・受益者のニーズに基づいて必要な施策や事業を実施することにおいて国の制度を活用するという、本県の実態に即した県民主体の予算編成やサービス提供を行なっていくことであります。
そして3点目は、住んでいる場所や地域の違いによる生活負担の格差をなくすことであります。
本県は、ご案内のように離島・半島の占める割合が大きく、過疎法の適用を受ける地域が多く存在しております。
昭和27年の離島振興法の制定以来、離島振興事業としてこの間、約2兆
2,000億円以上が投資されました。しかし、若者の島外流出や人口の減少は続き、安心できる生活の確保という命題が解消されないばかりか、更に積み上がってしまっているわけであります。
したがって、事業の仕方として、何をやったかではなくて、県民生活の向上に具体的にどう役立ったか、成果を出したかという視点を持って結果評価ができる内容に改めていかなければなりませんが、私は、先ずは、これらの地域にお住まいになる人たちの生活コストを引き下げる。例えば、船賃をはじめとする交通費や島外から移入する商品価格の低廉化、あるいは福祉サービスを受けるための特別負担の解消や教育関係費の軽減などを実現することが必要であり、そうした取り組みと併せて、財政の所得再配分機能によって地域経済を維持するといった従来の財政支出から、地域の特性を生かして内発力を高めるための財政支出にシフトしていくことが大切であると考えております。
本県の未来を切り拓いていくための成長戦略や、県民の利益のための改革と前進の仕方について、お訴え申し上げたいことが、まだ多くありますが時間の都合で更に申し上げることが出来ません。
しかしここで、皆様にどうかご信頼を賜りたいことは、私は県庁での長い行政経験と併せて、首長も県議も努めさせていただいた政治経験、これらを通じて県民のために本当に成果の上がる県政運営をいかにやるべきか、将来を見通して本県の自治体運営をいかに行っていくべきかということについては、もう随分学ばせていただいたということであります。
皆さん、県民のくらしを守り、長崎を元気にするためには、いまの県政のあり様を変えなければなりません。このままでは、本県の課題はいつまでも解消されないばかりか、物事が動かなくなってしまいます。
そして、県政の力点と進め方を県民の立場から変えていかなければなりません。行政が自らの尺度で予算や政策をつくる仕組みから、県民との協議を通じて県民に最も成果の上がる事業執行の仕組みに変えていかなければなりません。
また、県民の県民による県民のための政治であり続けるために、政策形成過程を県民に見える状態にし、結果についても十分な説明責任を行なう。併せて、一党一派に組みしないそうした公平で公正な開かれた県政に変えていかなければなりません。
さらには、組織の活力、職員のやる気が段々と失われてきている県庁の現状を、もっと気概をもって総合力が発揮できるような体制に変えていくことも必要であります。
そして、県民の総合力による県政を進めるという観点から、知事の任期を信任を得ても2期8年を限度とする制度もつくっていかなければならないと思います。
長崎県の主人公である県民の皆さん、「みんなで変えよう、ふるさと長崎。」その掛け声のもとにどうか心をひとつにしていただきますことを、心からお願い申し上げます。
|