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県庁舎建設問題について

 今から10年以上前、高田前県知事の時代に、他県での庁舎整備が進む中、分散化、狭隘化、老朽化している本県県庁舎の建設論議が行なわれ、有識者の検討委員会や議会の県庁舎問題特別委員会での検討を通じて県庁舎を新築する場合、その建設場所は長崎市の現魚市跡地が適地であるという取りまとめがなされました。

 しかし、金子知事は当初、財政難や山積する県政課題を理由に、社会経済状況が好転しない中では県庁舎の建設は見合わせるとの意向を示していました。 にもかかわらず、昨年あたりから建設の積極論に転じ、庁内での建設検討委員会での論議等を通じて現庁舎の耐震工事よりも魚市跡地に移転新築することが理屈として優っているとの論拠をもって建設計画を着実に進める姿勢を表明しています。

 金子知事のこうした姿勢転換は、例えば都市計画街路浦上川線(南々進線)の進捗や県庁舎建設用地の確保を目的として進められてきた魚市跡地の埋立工事の進捗、あるいは長崎駅周辺の土地区画整理事業のための法手続きの前進、さらには、近い将来長崎駅までの運行を目指す九州新幹線西九州ルートの一部着工等、これまでの将来構想が具現化してきたという社会的条件の変化がその根底のひとつとしてあると思われます。

 こうした都市整備を進めていくための大きな引き金としたいという知事の意向は解らないでもありません。

 そして、議会の中にもこれまでの論議において、時期こそ明示していないまでも県庁舎は魚市跡地に移転新築するという結論が得られているのだという多くの議員の意見があることも事実です。
 したがって、県庁舎建設問題は、これまでの論議の内容も踏まえつつ、また、ひとり県や県議会、県警等の事務執行のための庁舎をどのように造るかということにとどまらず、県都長崎市の都市整備やまちづくりをどのように進めるのかといった大きな観点から論議されるテーマとして取り上げられています。ですから、ここはタイムスケジュールも含めてよくよく考えなければなりません。


 そこで先ず県庁舎(県警本部の庁舎も含めて)が魚市跡地に移転新築することが、果たして、長崎駅周辺の都市再開発にとって必要不可欠かということです。

 県庁舎は本県の政治、行政の拠点ではありますが、市役所のように多くの一般市民が毎日訪れるようないわば集客機能を持つものではありません。

 また、長崎駅周辺の都市開発は、長崎市の土地区画整理事業についての都市計画決定がなされようとしておりますが、対象地の大部分の土地所有者であるJRから土地活用のあり方についての意向はまだ示されておりません。

 市内中心部に最後に残された広大な一等地であり、交通アクセスも抜群ですから、新しいオフィスや商業施設、宿泊施設、テナント併合の高層マンション等の立地も十分予想され、新たな都市機能の集積地となる可能性も十分ありますが、しかし、そういったものの集積のために県庁舎の立地が欠かせないのかということです。

 私は県庁舎が不特定多数の県民が自らのものとして多様な用途に活用できるような公共施設でなく、単に職員の事務所としての公物である以上、今回、庁舎の建設によって他の建物の建設の誘因となることはあっても、それ以上に都市整備のトリガーとはなり得ないと考えますし、他県の例からみても県庁の立地が他の民間施設の立地や活用や効用の発揮に直接関連し影響を及ぼすというのは考えにくいと思います。

 それとは逆に、県庁が魚市跡地に移転するとした場合、現在の江戸町の本庁舎跡地はどうなるのか。まさか取り毀して更地のままということはあり得ないでしょう。

 長崎市のこれまでのまちの形成の歴史は、現在の庁舎敷地に長崎奉行所西役所が設置されて以来、ここをいわば起点として商業地、住宅地等が立地し、現在の状況がつくり出されてきたことは既にご案内のとおりです。即ち、現在地に県庁があることは長崎市のまちの成り立ちに影響を与え、まちのつくりという意味では十分な位置を占めております。

 したがって、仮に移転するとした場合その跡地をどうするのか、―公用または公共用であることが必然―その計画が示されないままに移転論議を先行させるということは、仮に県庁舎建設が新たな都市開発に関連するというならなおさら、無責任のそしりを免れないものであります。

 そしてまた現庁舎跡地を新たな機能を持つ公用あるいは公共用施設を建設するとした場合その事業費と財源をどうやって捻出するのか。

 その経費は新たに建設しようとする庁舎の建設費と合わせて全体の事業費として計上されなければなりません。
その際、一定の庁舎整備基金があるとはいえ、とても現在高で賄えるものではなく当然に県民に新たな負担増を求めることになり、また、収支構造改革をやらなければ財政運営が成り立っていかないといった現在の財政状況を更に悪化させてしまうことになります。

 また、付け加えて言えば、現在示された建設費451億円はタタキ台のタタキ台といいつつも、それ自体、庁舎整備基金の現在高を上回るものですし、そもそも移転にかかる備品の整備費や高度情報関連の設備経費、移転費用等も含めた全体事業費を積算していけば、当然に先程の額が膨れあがることは明白です。加えて、いま県庁では地方機関の再編統合と各地区毎の拠点施設の整備計画があがっており、これらのいわば内部管理経費の総額の議論が隠されたまま本庁舎の問題だけがとりあげられるのは県民に対する情報開示と説明責任を果たしていないと言わざるを得ません。

 執務室が分散化し、また、民間施設の借上費がかさむというのなら、その分の、そして現庁舎の中でいわば屋根裏部屋のようになっている土木部の執務室も含めて、それこそ老朽化し土地利用としても勿体ない使われ方になっている第3別館を耐震構造の建築物として立て替えてはどうでしょうか。

 現在の基金の積立額の中で十分に対応できる事業費と考えられます。

 そして現庁舎が耐震構造ではなく地震による被害が想定されるというなら、少しずつ計画的に耐震補強をしていけばいいことです。

 それによって耐用年数が延びるということはありませんが、耐用年数というのは建物の利用について実際どのような意味を持つものなのか、現状において耐用年数が過ぎるからもう使えなくなるといった具体的な支障状況は生じていないと思います。

 一方で、全国ワーストワンの耐震化率である学校施設の再整備こそが県庁舎整備より優先する政策課題だと思います。

 県庁舎の建設問題についてはこのような多角的な論議が必要であり、移転新築か耐震補強かという論点を捨象した二者択一の選択肢だけを議論の俎上にあげるやり方はまさに片手落ちの議論といわざるを得ません。

 全体の計画が収斂されることなく、移転新築に進むことに私は反対です。

  平成20年7月

長崎県議会議員
比良 元


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